身にまとうモビリティー - 21世紀に必要な服を作る FUMITO GANRYU の世界

FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter

身にまとうモビリティー - 21世紀に必要な服を作る FUMITO GANRYU の世界

〈COMME des GARÇONS〉での活動を経て独立し、瞬く間にトップブランドのひとつに昇りつめた〈FUMITO GANRYU〉の過去と現在に迫る

文化ファッション大学院大学を卒業後、2004年に〈COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)〉に入社しファッション業界でのキャリアをスタートした丸龍文人氏が作る洋服は、実用的でありながらコンセプチュアルだ。アシンメトリーなカットがもたらす大胆な構造と、時にメンズファッションにおける既存のルールからあえて外れる色使いの妙。〈Junya Watanabe(ジュンヤ ワタナベ)〉のもとでパタンナーとして活躍し、2008年に〈コム デ ギャルソン〉社から自身の名を冠したブランドである〈GANRYU(ガンリュウ)〉を立ち上げた丸龍文人氏は、当時社内で最年少のデザイナーであったという重圧を見事に乗り越え、約10年間にわたり目覚ましい活躍を見せた。2017年春夏シーズンで〈ガンリュウ〉は終了するが、その翌年に〈FUMITO GANRYU(フミト ガンリュウ)〉をローンチ。新ブランド立ち上げから間もなく「Pitti Immagine Uomo(ピッティ・イマージネ・ウオモ)」で華々しいデビューを飾り、セカンドシーズンでパリ・ファッション・ウイークの公式スケジュールに入るなど、新興ブランドとしては例を見ないほどの注目度を国内外から集めることに成功した。あれから約5年、〈フミト ガンリュウ〉は当初の勢いはそのままに、より深みのある洋服作りを行っている。

FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
〈フミト ガンリュウ〉は"21世紀に必要な服"というコンセプトを掲げる。〈コム デ ギャルソン〉で長い年月を掛けて培ったデザイナー/パタンナーとしてのスキルとキャリアを活かしながら、まだ見ぬ何かを生み出すこと。メンズファッションにありがちな懐古主義や決まりきったユニフォーム的なスタイルに縛られることなく、すでにあるものを真新しくアレンジする編集力。ありふれたアイテムも丸龍文人氏の手に掛かれば何度でも新しく蘇る。それこそが〈フミト ガンリュウ〉の大きな強みのひとつではないだろうか。
また、合成繊維・天然素材をアイテムによって柔軟に使い分け、インディゴ染めのような日本の伝統的な職人技も大切にする姿勢にも注目したい。2023年秋冬アイテムのKinetic wool shirtでは、滑らかな光沢感と薄手で柔らかな手触りが特徴のウール素材である"サキソニー"を使用。立体裁断でパターンを引き、素材本来が持つ上質な光沢感をさり気なく発揮する作りに仕立てている。デザインだけではなく、素材の選定と開発にも挑戦的な姿勢を貫きながらウェアラブルな洋服である点も、他ブランドとは一線を画す魅力だ。
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
そして、待望の2023年秋冬コレクションは「to C」というテーマが掲げられた。to Consumerを意味するテーマには、消費者のための服作りという意味が込められている。つまり、コレクションのためではなく、効率よく商品を売るためのマーケティング的なアプローチでもなく、私たちのための洋服ということ。先鋭的でミステリアスなLOOKは都市に潜むごくありふれたオフィスが舞台になっており、匿名性の高い人々とデスクの間を縫うようにモデルたちが無機質に佇む。
アームを強く強調したダウンジャケットや左右で丈感の異なるアシンメトリーなテーラードジャケット、ゆったりとしながら若過ぎないパンツなど、普遍的なメンズウェアを今の時代に沿った形でアレンジ。挑戦的なデザインと作りを志向しながら、どこを切り取っても〈フミト ガンリュウ〉であり続ける安心感も健在だ。
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
FUMITO GANRYU 2023 Autumn Winter
左右非対称のパターンが特徴的なテーラードジャケットに見られるように、今シーズンの〈フミト ガンリュウ〉は"ずれ"がひとつのキーポイントとなる。すでに完成されたクラシックなジャケットやシャツに意図して"ずれ"を起こすことで、思わず目を惹く新鮮なものにアップデートする。〈コム デ ギャルソン〉にいた時代からパタンナーとしても優秀な才能を発揮してきた丸龍文人氏だからこそできる絶妙なスパイスと言っていいだろう。