2020年代のカルトブランド、セント マイケルの世界とその精神

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2020年代のカルトブランド、セント マイケルの世界とその精神

ヴィンテージへの深い愛と執着、類を見ない技術力でコアなファンを増殖させる〈©SAINT MXXXXXX〉の魅力を徹底解剖

ファッションの世界では時折、カリスマ的なブランドが誕生する。日本が誇るモード界の巨人、偉大な先駆者である〈COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)〉と〈Yohji Yamamoto(ヨウジ ヤマモト)〉は、1981年のパリ・ファッションウィークで初のランウェイを行い、文字通り世界を変えた。華やかでグラマラスなスタイルが主流だった当時のモード界を「黒の衝撃」で塗り替えた逸話は、40年以上が経過した今も伝説的だ。
また、1990年代に日本で誕生した〈UNDERCOVER(アンダーカバー)〉や〈A BATHING APE®(ア ベイシング エイプ®)〉などの裏原宿系ブランドの台頭とその後の活躍も、日本のファッションシーンにおける忘れられない歴史と言える。そして、そういったブランドのそばに常に寄り添いながら海外のメゾンからのラブコールが殺到する "ストリートのゴッドファーザー"、藤原ヒロシ氏という人物も、ファッション業界におけるカリスマを語る際に誰もが真っ先に思い浮かべるのではないだろうか。

©SAINT MXXXXXX(セント マイケル)〉は先に述べたブランドとは文脈がやや異なるけれど、カリスマ的な存在感とコアな人気を持つ点では引けを取らない。グラフィカルなプリントをオリジナル開発の生地に載せ、リアルヴィンテージとまったく遜色のないレベルの加工を施す〈セント マイケル〉は、毎シーズン熱狂的な信者を生み出し続けている。〈セント マイケル〉を着る人が姿を現した途端、その場は独自の個性で満たされる。本稿では、ヴィンテージへの強い愛情と執着を現代的なファッションに昇華する〈セント マイケル〉の歴史を掘り下げながら、カルト的な人気を集めるブランドの魅力を探っていく。

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〈セント マイケル〉は〈READYMADE(レディメイド)〉のデザイナー細川雄太氏と、アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動するマルチビジュアルアーティスト、Cali Thornhill DeWitt(カリ・ソーンヒル・デウィット)氏が2020年に設立。
2013年に設立した〈READYMADE〉は、ヴィンテージを解体・リメイクすることで新しいファッションを生み出すというコンセプトのもと、ウェアやバッグ、ぬいぐるみに至るまで独自のクリエイションを行ってきた。他ブランドでは見られないユニークなデザインとストリートに根差したラグジュアリー感、そして絶対的な生産数の少なさがロサンゼルスを代表する高級セレクトショップ「Maxfield(マックスフィールド)」でも注目され、瞬く間に人気が爆発。大量生産へのアンチテーゼを込めて1点1点を手作業で制作するスタイルと、背景にある反戦へのメッセージも〈READYMADE〉というブランドを唯一無二の存在に押し上げている。
一方、カリ・ソーンヒル・デウィット氏はアメリカ・ロサンゼルスを拠点とするマルチビジュアルアーティスト。Kanye West(カニエ・ウェスト)のマーチャンダイズデザインを手掛け、フォトグラファー、グラフィックデザイナー、ファッションデザイナー、レコードレーベルの主宰など形式を問わずに活躍している。つまり、すでにお互いがそれぞれの活動で大きな成功を収めているのだが、なぜ両者はタッグを組むことにしたのだろうか?
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スタートしたきっかけ自体は「何か一緒にやってみない?」という軽いノリだったようだ。ただし、〈READYMADE〉とは違う方向性であることと、単発で終わらずに継続したプロジェクトにすることはすぐにまとまり、その流れで一点物に近いヴィンテージスタイルのブランドにすることが決定した。〈READYMADE〉のデザイナーと、世界的なアーティストのマーチャンダイズも手掛けるアーティストのタッグは話題性も抜群。すぐさま人気ブランドに躍り出たことが記憶に新しい。
とはいえ、話題性だけで高い人気を維持し続けることが難しいことは言うまでもないだろう。〈セント マイケル〉が短期間で多くのファンを獲得した要因は、ヴィンテージ顔負けの驚異的な加工をはじめとしたハイレベルな品質にある。
同ブランドのアイテムはすべてオリジナルのボディを採用し、そこに両デザイナーが時にはフリーハンドで描くデザインを限りなく手作業に近いやり方でプリント。リアルなヴィンテージ感を究極レベルで再現するために色褪せや経年劣化をしにくい特殊なプリント手法を採り、染料や染め方も厳選される。そのこだわり具合は、長い時間を掛けて着用と洗濯を繰り返すことで自然発生するプリント部分のひび割れ具合も計算しているほどなのだ。実際に商品を手に取ってみたことがある方は、プリント部分のかすれや染みこみ具合の「本物感」に驚きを感じたことがあるのではないだろうか。
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また、〈セント マイケル〉のウェアはすべて特殊ミシンであるフラットシーマーで縫製される。1960年代にアメリカの「ユニオンスペシャル」社が開発したフラットシーマーは、異なる生地を1枚の生地のように縫い合わせることができるため、〈セント マイケル〉が求めるヴィンテージ感と滑らかな縫い目を実現するためには欠かせない。古着に見られる不揃い感や完璧すぎない仕上がりをこれほど再現できる秘訣は、特殊なミシンを完璧に使いこなしていることにもある。
さらに、脇に縫い目のない丸胴ボディを採用し、ドラム式の大型タンブラーで乾燥させることで本物のヴィンテージのような風合いを出している。プリントや染料にも強いこだわりを持っていることは先に述べたが、ひとつひとつに手作業でダメージや汚れの加工を行う超アナログな製作方法も〈セント マイケル〉の大きな特徴だ。1940~50年代のヴィンテージを参考にすることが多い同ブランドは、デザイン時にコンピューターを極力使用しないという。画一的なファッションが多い現代でアナログ時代の製作方法を積極的に採る〈セント マイケル〉のプロダクトは、いわば失われた過去と現代をハイレベルにミックスさせたものとも言える。そのミックス感もコアなファンを多く獲得している理由だ。
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超アナログな手法を駆使しながらヴィンテージの世界観を独自に構築する〈セント マイケル〉は、国内外を問わず数多くのブランドや企業とのコラボレーションコレクションも展開。〈A BATHING APE®(ア ベイシング エイプ®)〉や〈Schott(ショット)〉、〈Dickies(ディッキーズ)〉、〈WIND AND SEA(ウィンダンシー)〉、〈Emotionally Unavailable(エモーショナリー アンアベイラブル)〉といったファッションブランドはもちろん、「Disney(ディズニー)」のような大企業、アーティストの河村康輔、英国を代表するロックミュージシャンであるDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)までその名を連ねる。コラボレーション相手が誰であろうとオリジナルの世界観が維持されているところも、〈セント マイケル〉がいかに特別なブランドであるかを物語っている。
安易な「ヴィンテージ風」のブランドは数多くあれど、これほどの熱量をもって徹底的にこだわるファッションブランドは国内外問わず決して多くない。ましてや、現代的に着用できるシルエットとスタイルを併せ持つブランドとなるとかなり稀有な存在と言える。設立からたった数年で世界的な人気と知名度を持つほどに急成長した要因は、細川氏が〈READYMADE〉のデザイナーであることも大いに関係しているものの、両デザイナーに豊富な知識と経験があってこそ。それらが強いバックボーンとして存在していることも、同ブランドの強烈な魅力と言えるだろう。
SNSやYoutubeでいかにバズるかがもてはやされるインスタントな時代の中で、〈セント マイケル〉のようなアナログを極めるブランドがカルト的な人気とリスペクトを集めていることは、ファッション好きであれば痛快さを感じるはず。〈セント マイケル〉はすべてのアイテムが少量生産のため、入荷=即完売することも多い。TATRAS CONCEPT STOREでは最新アイテムから過去の作品までを豊富に取り扱っているので、気になる方は以下のリンクから早めにチェックいただきたい。