「危険な男」と聞いて、誰を思い浮かべるだろうか？映画「ファイト・クラブ」でBrad Pitt（ブラッド・ピット）が演じたタイラー・ダーデン？「タクシードライバー」でRobert De Niro（ロバート・デ・ニーロ）が演じたトラヴィス・ビックル？それとも「レオン」でGary Oldman（ゲイリー・オールドマン）が演じたノーマン・スタンスフィールドだろうか？時代もストーリーもまったく関連性がないこれらの映画の登場人物には、1週間後の未来も考えない無鉄砲な生き方をし、酒やドラッグに溺れ、怒りに身を任せ、基本的に人生を放棄しているという共通点がある。その狂気をはらんだ姿が私たちの目をスクリーンに釘付けにし、憧れが憧れを呼び、想像上のキャラクターにも関わらず伝説的な存在になっていく。

ベトナム語で「危険な男」を意味する〈LU'U DAN（ルーダン）〉は、〈CELINE（セリーヌ）〉や〈BALENCIAGA（バレンシアガ）〉で仕事をした経歴を持つベトナム系米国人デザイナー、Hung La（ハン・ラー）によるメンズウェアブランド。90年代アジアのギャングカルチャーから着想を得た同ブランドは、端的なステレオタイプやマスキュリニティを好まず、常に新しい男性像を模索することで、古き良き不良のオーラを漂わせている。元々ハン・ラーはエッジの効いたウィメンズウェアブランド〈Kwaidan Editions（カイダン エディションズ）〉の創設メンバーで、日本などのアジア要素が随所に垣間見える点も特徴と言えるだろう。

伝統的な家庭で育ったベトナム系米国人のハン・ラーは、「良いアジア人の子どもになりなさい」という親の教えの中で葛藤した結果、自らが育ってきたコミュニティとのつながりを実感できず、文化を拒絶してきた過去がある。そのような中、コロナ過によるロックダウンをきっかけに自身のルーツに立ち返り、アイデンティティーを模索し続け、アジア人男性にスポットを当てた作品を提供した。アイテムはギャングカルチャーにインスパイアされただけあり、どれも狂気を感じるような禍々しさがあるが、暴力とは異なるアジア人男性の「力強さ」が表現されている。表層だけでは判断できない複雑なストーリーが入り混じった作品は、単なるファッションアイテムという枠を超え「男らしさとは何なのか」という根源的なテーマを見つめ直す深みもある。〈LU'U DAN〉を着ればタイラー・ダーデンになれるわけではないが、危険なオーラを身にまとうということに違いはない。