THE EDGE

TCS CONTENTS PLANNER:石田 徹

新旧の価値観が交錯する、新しいショップの姿を目指して

毎シーズンTATRAS CONCEPT STORE(以下TCS)で展開するすべてのアイテムを、世界各国から買い付けているバイヤー(以下コンテンツ プランナー)とはどんな人物なのか。老舗メゾンから知る人ぞ知るカルトブランドまで、今話題のデザイナーからネクストヒットの若手注目株まで。ファッションの楽しさを知り尽くす彼らが、店頭で表現するものとは? TCSの顔とも呼べる、コンテンツプランナーの素顔に迫る。

Q:石田さんはどのような経緯でTCSのバイヤーになったんですか?

僕は新潟でファッション系の専門学校を卒業してから、新潟でトップブランドだけを扱っている、地元では有名なセレクトショップに就職しました。そこは「いらっしゃいませ」とか言うなって教育されるような、とにかく当時の新潟で一番攻めていたお店で、今のTCSとはまったく雰囲気の違うショップでしたが、そこで9年間働きました。150坪ぐらいある倉庫みたいなだだっ広い店舗で、扉だけでも3mぐらいあるかなり入りづらい感じのショップでした。とにかく世界観の作り込みがすごいから、〈メゾン マルジェラ〉のコーナーなら壁や床はもちろん、ラックとかハンガーとかも全部真っ白に塗って、什器はヴィンテージの物をわざわざフランスから取り寄せて、さらに一つ一つのラックは10mぐらい離して置いていました。ちょっと奥に行くとエディ・スリマンが手掛ける〈サンローラン〉の世界があって、またその奥には〈トム ブラウン〉みたいな。ラグジュアリーストリートがいくら流行っても、かたくなにメゾン系だけに特化し続けるかなり硬派な打ち出しでしたね。そんな意識高めなお店だから、お客様も、コレクションの写真だけを見て「このルックを全身で、上は46サイズ、下は48でさらに3cmだけ出しといて」みたいな、変態チックなこだわりを持った人が多かったです(笑)。しかもほぼ全員が年間に100万円以上使ってくださる顧客様だったので、完全に顧客商売って感じでしたね。

当時の僕は給料がバカ安いのにもかかわらず、毎シーズン立ち上げ時には〈サンローラン〉を全身で揃えたりして、常に借金だらけでしたから(笑)。このままじゃいけないと思って、久々に再会した先輩方を頼って、新潟から上京する決意をしたんです。それですぐにTCSのコンテンツプランナーとして採用していただきました。

Q:トントン拍子でしたね。実際にバイイングを手掛けたのはどのシーズンからですか?

2019年春夏シーズンから僕の買付けですね。ただ、その買付けの出張に出たのは、採用からわずか一週間後のことだったんです。しかもパリ。つい最近新潟から上京して来たばかりで、恵比寿の会社に通い初めたと思ったら、一週間でパリにバイイングですから(笑)。しかもアシスタントバイヤーでの採用かと思ったら、メインのコンテンツプランナーというサプライズ&プレッシャー付きで(笑)。お店のことも、顧客のこともあまり知らない状態で、いきなり全責任ですからね。震えましたよ…。でもお店的にも、そのタイミングで方向性を刷新していこうとしていた段階だったこともあり、また新しいTCS像を、一から作り上げて行ったイメージです。

具体的に言うと、以前までのTCSは今よりももっとアッパーの世代がターゲットでした。例えば〈タトラス〉のダウンジャケットに〈バルマン〉のパンツを合わせる感じの、ちょっと艶っぽい大人像がメイン。でも僕が入った当時は、もっとラグジュアリーとストリートが混じり合いながら、ラグスト系やテック系の流れが主流になっていて、時代の流れも目まぐるしく移り変わっている状況でした。だからそのタイミングから、〈ア コールドウォール〉や〈ALYX〉をはじめ、毎シーズン新しく出てくるLA系のブランドなんかも積極的に取り込みながら、Z世代のゾーンも強化していくことにしたんです。「今売れるから」と言うバイイングではなくて、ショップの方向性や顧客との関係性を長期的に構築して行くことに重きを置いた、より建設的なバイイングを心がけています。

Q:具体的にどういったディレクションでバイイングしているんですか?

TCSの将来像を描く上で、今一番大事にしていることは、TCSの色を明確に打ち出していくこと。それは3ヵ年計画で今注力しているプロジェクトです。その中で最近考えている言葉が、「ニュートロ(ニュー×レトロ)」です。新しい物と古い物が本当の意味で融合したお店って、周りを見渡してもなかなか無いなって思っていて。それが表現できたら、TCSらしく、今の時代を独自の切り口で表現できるんじゃないかなって思っています。例えば、これは音楽でもカメラなんかでも同じことが言えると思いますが、技術の革新と共にどんどんデジタルやバーチャルがメインになっていけばいくほど、その振り戻しで、アナログやフィジカルの魅力も同時に際立ってくる。

今バイイングで出会うデザイナーたちには、20代の若者が増えています。例えば2022年秋冬から取り扱いが始まる、〈シュガーヒル〉のデザイナーも25歳ですが、ノンウォッシュのデニムパンツに〈リーガル〉のサドルシューズを合わせるような、〈オールドジョー〉にも通じるルードスタイルで、僕らの世代も、その上の世代も通ってきたカルチャーをベースにしています。でも、今の若い世代のフィルターを通すと、これまでにない新しい切り口の表現が見えてくるんです。たぶん今の20代中盤までの世代は、ファッションの入りがラグストだったりするはずです。だからそれより前にあったいろんなスタイルが、彼らの目には全部真新しい物として映るんです。古い物って、これはこうでなきゃいけないっていう決まりごとばかりが増えてしまうことで、どんどん楽しみ方の幅が狭まっていきますが、その固定概念に晒されていない若者たちは、もっと自由に楽しめるんです。それと同時に、その新しい捉え方や視点に触れることで、大人世代にも新鮮な刺激を与えることができます。大人世代はケミカルウォッシュとかベルボトムを大昔の流行と考えていても、若い世代は今の流行として取り入れています。大人が急にベルボトムにタックインっていうのはかなりハードルが高いですが、僕も今日履いている〈リーバイス®〉646とか、もうちょっとユルい517ぐらいのフレアシルエットなら、気軽に取り入れられますよね。そうやって、アッパーの世代にも、若い世代にも、両方に刺激を与えられるような商材を取り揃えて行きたいと思っています。

Q:そのほかにTCSとして注力していきたいことはありますか?

オンラインと並行して、フィジカルなショップであることの強みを打ち出していくために、体験型のオフラインイベントにも去年あたりから注力しています。やっぱりさっきのフィジカルとバーチャル、デジタルとアナログの振り戻しもそうですが、今は極端な話、どんなブランドのどんなアイテムでも、世界中どこにいてもワンクリックで買えるような状態です。だから何を買うかよりも、どこで、どのように、誰から買うかっていう部分に、よりショッピングの価値基準がシフトしていっているように思います。それは僕ら世代が若いころに経験した、「ショッピングの楽しさ」という部分に立ち返っていく流れでもあります。例えネットで同じ物が低価格で変えたとてしても、わざわざお店に来店して、ディスプレイや、ポップアップのインスタレーションや、ショップスタッフとのコミュニケーションから刺激を受けながらゆっくりと時間を費やして買い物をするという行為自体に、オンラインでは得られない価値を見出す人々がもっと増えていくはず。だからTCSでも、アートのエキシビションやDJイベントなど、人が集まって、音楽を聞いて、アートを観て、お酒を飲んで、情報を発信していけるようなイベントを今後もどんどん打ち出して行きたいと考えています。

Q:ご自身の私物の中で、どうしても手放せない物って何かありますか?

マルジェラのショルダーバッグですかね。かなり頑丈に作られていて、もう10年以上使っています。いい感じに味も出ているんですが、全然くたびれないんです。あとは、今はバイクも絶対手放せないですね。今乗っている99年モデルのハーレーは2020年に買った物ですが、バイクはそれこそ漫画の「湘南純愛組」を読んでから好きになって、10代の頃からいろいろと乗ってきました。専門学校時代にバイトしていた居酒屋の従業員が、全員ハーレー乗りという超特殊な環境にいたこともあり、初めてハーレーを買ったのが25歳でした。その後、色々あって手放したんですが、コロナをきっかけに「やりたいことやろう!」ってことで、また大好きなハーレーに返り咲いたっていう形です。ちなみにインスタのアカウント名も「@ishi_tcs_davidson」で、ちゃっかりハーレー推しをアピってます。ショップの情報の合間にちょいちょいハーレーの写真を差し込んでいるので、僕のことをよく知らない人が見たらちょっとワケがわからない感じになっているかもですが、バイクとの生活が楽しすぎるので、どうか大目に見てください…。

石田 徹

TATRAS CONCEPT STORE CONTENTS PLANNER
新潟のセレクトショップに入社後、TCSのコンテンツプランナーへ。
2019年から現職。モードからストリートまで幅広い知識と経験を活かしたバイイングを得意とする。
休日は愛機ハーレー・ダビッドソンでツーリングやキャンプなどのアウトドアを満喫。

STAFF

Photography:Toyoaki Masuda

Edit & Text:Shingo Sano